世界のあちこちで アイシテル

         お侍extra 三景篇
 


       




雨の名残りか、夜風は微妙に生ぬるく。
確かに寒くはあるけれど、
少なくとも凍るようなという種類の、
今時分ならではな それからは、少々遠いような。
雲が多くて月も覗かぬ、そんな漆黒の更夜の屋根の上。
まるで月の代わりのように、
金色の丸いものがふわりと浮かび上がってくると、
何かしらを懐ろから掴み出し、
口許をによによとたわめて うっとりと見ほれる。

 《 …そんな顔も出来るのだな、貴公。》

さほど間近ではないながら、気配を消すよな他人行儀はしないまま、
同じ屋根の上へふわりと姿を現したもう一人。
いやさ、大妖の側のお仲間だから人扱いは失礼か?
日頃は子供の手のひらにでさえ乗っかれそうな小ささの黒猫さんが、
今は結構な大きさ、
先に来ていた青年を、その背中へ寝そべらせることが軽々と可能なほどの、
並外れた巨躯をつややかに現して。
少々口許の尖ったお顔を、
そちらも日頃とは打って変わった玲瓏な姿を現している青年へと向け、
落ち着いたお声で話しかけており。

 《 …………。》

仔猫でなくなると人格も多少変わるのか、
一気に寡黙になる彼だけれど。
話しかけられたこと、煙たいとまでは思っていないらしく。
それどころか、少し間が空いていた間隙を埋めるよに、
そちらからこつこつと近づいてくると…

  ―― ぱふり、と

五色七彩の小袖を重ね着た身を、
大猫の毛並みへ深々と埋めてくる無邪気さよ。
おやおやと苦笑をこぼしたクロの、
うずくまっているその胸元あたり。
柔らかな毛並みに頬を埋め、ひとしきり懐いてから、

 《 これを。》
 《 おお、かかを菓子か。》

おかか? かかをだ、知らぬのか?と。
微妙におのんきな会話になっているのを、
黙って聞いているのは難しかったか。
くつくつと苦笑を洩らしつつ、
そちらさんは壁抜けはさすがに出来ないのでという外からの跳躍で、
同じ屋根まで飛び上がって来た蓬髪頭の壮年殿。

 「やはりな。
  毎年毎年いつの間にかな見事になくなるチョコレートだったが。」

そうやってお主が食うておったのかと。
彼らの正体、知っておいでの当家の主人が、
部屋着へ外套と襟巻きを足した姿で、大妖たちの集まりへと顔を出す。

 《 …?》
 「んん? …ああいや、特に怪しい気配があった訳ではないさね。」

それを追って出て来たのかと、金髪紅眸の大妖狩りが訊いていること、
この寡黙な彼から、どういう加減か読み取れる勘兵衛で。
屋根の上でごそごそしているものだから、
こっちこそ何かあったかと感じたまでだと。
口許近くまで襟巻きに埋まったお顔をほころばせて言い返す彼だが、

 《 ……。》
 「ああ。七郎次が今日渡してくれたものだ。」

それは暖かな想いのこもった手編みの襟巻きは、
彼に寄り添う優しい秘書殿が、少しずつ編み上げた逸品で。
それは誇らしげに喜んでおいでの壮年作家殿だったが、
あいにくと今日が何の日かまでは覚えていなかったこちらの彼ら。
昼間は小さき者であり、晩も人ならぬ身だけに、
やっぱり、何の日かという意味までは、
毎年訊いても翌年までは覚えていられなかったようだけれど。

 《 チョコも。》
 「まあな。」

おくれおくれとしがみついて来た仔猫さんを、
引っ繰り返ってしまうからダメと。
懸命に引き留めていたのも、同じ秘書殿で。

 「だが、その姿だったら構わないのか?」
 《 …、…。(頷、頷)》

澄ましたお顔で、
島谷せんせえへと届いた中から持ち出したらしい板チョコを、
ぺりりと剥いてのさっそく齧りつく大妖狩りの彼であり。
子供のような無邪気さへ苦笑をしつつ、

 《 そも、我らは妖異なのだ、主よ。》

自分の懐ろを見下ろしながら、クロ殿がそんな風に言葉を加える。
その鼻先へ、ぺきりと割った半欠けを“どうぞ”と差し出す久蔵なのへ、
お?と微妙に瞠目した大猫さんだったりし。


  二月も半ば、春はいよいよすぐそこだ。
  誰かを好きだという温かい気持ちを
  持ち寄ってのもっと暖かくなってから、
  あとちょっとの我慢、頑張って乗り切りましょうね?




   〜Fine〜  12.02.14.(〜02.15.)


  *年末ネタ同様、現代パラレルで頑張ってみたら、
   思ってたより長々した代物になり、日付を越えてしまいました。
   今からのUPです、間に合わなくてすいません。

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